注目記事

世界で稼ぐ気がないのは、経営者の怠慢だ

柳井 正
ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長

田原総一朗
ジャーナリスト

海外進出失敗の履歴

田原 ユニクロの中国への進出は、最初うまくいきませんでしたね。なぜうまくいかなかったんですか。
柳井 中国に合わせようとしたからですね。
田原 「郷に入れば郷に従え」は間違いだということですか。
柳井 中国に最初に進出したのは八年前のことですが、当時の中国はまだ消費者の所得が低かった。だから、とにかく価格を下げようとしたんです。素材を安価な中国製にしたりして、安く作って売った。それが評価されませんでした。
田原 収入が少ない人たちに安いものを売るのは、自然なことのように思いますが、それでは駄目なんですか。
柳井 駄目だと思います。昔の日本を思い出しても、「欧米のブランド品は値段が高い。だから良いものだ」とされていた時期がありました。中国でも、価格=品質と考えている人が多いんです。だから、本来のユニクロ以下の価格にすると、「こんな値段では品質が良くないに決まってる」と思われる。それに本当にグローバル化を目指すなら、同一ブランドは同一品質、同一プライスにしないといけないと思います。
田原 アメリカ進出も最初は失敗しましたね。なぜ失敗したのでしょう。
柳井 アメリカに関して言えば、結局、ユニクロそのものが知られてなかった。アメリカでは郊外のショッピングセンターに三店舗出しました。でも例えば、シンガポールの企業が日本に来て、埼玉や千葉のショッピングセンターに三店舗出しても何の反響もないでしょう。それと同じことをしてしまった。
 それでたまたまニューヨークのソーホーにうちの事務所があったのですが、余った在庫を少しでも換金したいと思って、事務所の近所に店舗を借りて売ってみた。そうしたら売れたんです。普通のビルの一階で内装もせずに商品を置いただけなのに、郊外店よりもずっと売れた。それならということで、二〇〇六年にソーホーで大型店舗を作った。この店は今世界でもっともよく売れる店舗になっています。
田原 イギリスでは、なぜ失敗したんですか。
柳井 最初、イギリス最大手の小売チェーンであるマークス・アンド・スペンサーで経験を積んだ人を社長にして、英国流の経営をやろうと思ったんです。でもわれわれの経営スタイルとまったく違った。
田原 どう違うんですか。
柳井 今の日本政府ではありませんが、大きな本部を作って、そこからすべての指示を出すという方針だったのですが、まず本部の経費がかかり過ぎでした。それに階級制度のような意識があって、店長は店長、販売員は販売員と分けて考えていた。われわれは、店長も販売員も本部も一緒になって「全員で経営していく」という方針ですから、文化が合わなかった。それで日本から人をかなり送り込んで、ユニクロ方式の経営をすることにしました。
田原 経営も値段もすべて世界中ユニクロ方式でやると。
柳井 そういうことですね。中国へ行っても、中国方式を採用していたら、中国企業に絶対勝てません。われわれがベストだと思う方法で、全世界統一できれば、それが一番いいんですね。
田原 そしてこれが最もすごいところですが、一度は失敗した中国でもアメリカでもイギリスでも、再チャレンジされて、今はうまくいっていますね。
柳井 失敗には成功の芽が潜んでいるということです。そういう意味から言っても、とにかく実行してみないことには始まらないんです。考えているだけでは、失敗すらできませんから。

五兆円企業を目指す!

田原 二〇〇四年にカネボウが倒産したとき、日本中に「繊維や衣料事業はもう駄目だ」という空気が充満しました。その時でも柳井さんは「未来はある」と思えた。これはなぜですか。
柳井 従来の繊維とか小売とかファッションとかとは違う、まったく新しい産業を自分たちで作ろうと思っていたからだと思います。
田原 具体的にどういうところを、新しくしようとしたんですか。
柳井 まず、企画、製造、販売まですべて自分たちでやるということですね。日本人は、いい製品を作れば売れると思っています。でも、実際は売れない。まず顧客ニーズに合ってないといけないし、「これはいい製品ですよ」と消費者に伝えることができなければ売れない。それをやろうとしたんです。
 また、非効率なことを徹底的にやめました。服の小売業というのはとても古い業態ですが、ハイテク産業と同じように事業を効率化しました。組織や人事の考え方も、そうした異業種の最先端の経営をしている企業を模範にしました。
 それから、生産拠点としても、販売先としても、全世界を利用しようとしました。繊維業は、発展途上国が発展していく中で最初に成り立つ産業です。だから、どこでもできる。中国でも、バングラディッシュでも、ベトナムでも、カンボジアでも、フィリピンでも、インドネシアでもできる。これは強みだと思いました。
田原 二〇〇五年の年間売上が三〇〇〇億円でした。当時、柳井さんは二〇一〇年には一兆円にすると言いました。正直僕は「法螺の吹きすぎだ」と思ったのですが、ほぼ実現できてしまった。なぜこんなことができたのですか。
柳井 そういう目標を持ったからではないでしょうか。あらゆることを成し遂げるには目標が必要です。そして、人が集まって事業をするということは、全社員が同じ目標を持って、その目標に向かって進むということです。法螺かもしれないけど、目標を持てば、そこに行こうとみんな頑張るものなんです。
田原 今後の目標は?
柳井 そうですね。あくまで目標ですけど、二〇二〇年に売上五兆円、経常利益一兆円の企業にしたいですね。
田原 五兆円!? 一〇年で五倍にするということですか。
柳井 ええ。正確にはまだ売上一兆円に達していないので、六、七倍です。
田原 すごい。
柳井 これから先は、本格的に世界中の国を相手にできます。特にアジアの国。中国も韓国もASEANも、経済が安定してきて、世界中の富が移りつつあります。もちろんヨーロッパにも行けるし、アメリカにも行ける。すごくビジネスチャンスが増えたと思うんです。だからそれくらいはできるはずだと考えています。

最新号目次

中央公論 2014年8月号(7月10日発売)
定価930円(本体価格861円)

→目次へ

中央公論 2014年7月号(6月10日発売)
定価 特別定価930円(本体価格861円)

→目次へ

中央公論 2014年6月号(5月10日発売)
定価 特別定価930円(本体価格861円)

→目次へ

中央公論 2014年5月号(4月10日発売)
定価特別定価 930円(本体価格861円)

→目次へ
ページの先頭へ